二人で入るには狭いバスタブに無理やり体を捩じ込むと、ざぱ、とお湯が溢れて排水溝に流れていく。だぱだぱと溢れて流れていくお湯に、プラスチックでできた風呂桶が流されて、バスチェアーにからんとぶつかる。
普段は上げている前髪を下ろしたアオキは、実際の年齢よりいくらか幼く見える。本人は邪魔くさそうに濡れて重たく下がっている前髪をかき上げては、自分の足の間に収まるペパーの肩に湯をかけている。
「狭くないですか」
「ちょっと狭いけど、平気ちゃんだぜ?」
「そうですか。それなら構わんのですが……」
「……こうさ、テレビドラマであるだろ? 風呂に誰かと入るシーン。あれ、ちょっとやってみたくてさ」
アオキさんとやれて、実は結構嬉しかったりしてるんだぜ。
にぱっ、と背後のアオキを見上げながら笑ったペパーに、胸の内が暖かくなるアオキ。すっ、と目線を少し逸らして、そうですか、と短く返事をする。その耳が少し赤く染まっていて、ペパーは湯当たりしたのか、と心配そうに尋ねる。
温まりましたからね、と短く返事をしながら、アオキはそろそろあがりますか、とペパーに確認する。おう、と頷いた彼はざぱと上がると一気に体積を減らした湯が量を減らす。アオキもバスタブから立ち上がれば、流れ出たお湯はずいぶん多かったらしいのが分かる。ついでに湯を抜いてしまう。
ふわふわのバスタオルで身体を拭きながら、アオキは髪もついでにタオルドライだけで済ませようとするペパーにドライヤーを使うように言い含める。はあい、と寝巻きがわりのTシャツを着ながら返事をした彼は、アオキさんも乾かしてやろうか、と楽しそうな笑顔を浮かべている。お願いしてもいいですか、と甘えてやれば、嬉しそうに頷いた彼はドライヤーを持ってリビングに向かう。早くこいよ、と寝巻き代わりのスウェットを着ているアオキに声をかけてくる。
冷え切った廊下を渡り、ガスヒーターがしっかり働いているリビングに戻れば、ソファーに腰を下ろしてしっかり髪を乾かしているペパーが見える。ドライヤーの温風に揺られる髪を見ながら近寄れば、隣をぽんぽんと叩いて座るように言外に告げられる。
隣に腰を下ろして、鳥ポケモンよろしく首を伸ばしてペパーの手元に頭を差し出せば、ドライヤーの温風と全体を乾かすように動く指先が頭皮に触れる感覚がやってくる。満遍なく乾かされる髪と忙しなく動くペパーの指先の感覚で、アオキは眠気すら誘われる。「あくび」を使われていないと言うのに不思議なものだ。
思わず、くあ、と欠伸をすれば、ペパーはドライヤーのスイッチを切って尋ねてくる。ドライヤーの大きな音が消えるだけで、部屋はシン、と静まり返る。
「おねむちゃんか?」
「いえ、まだ寝ませんよ」
「そっか」
「ペパーさんは眠いですか?」
「ちっとも!」
「それはよかった」
片付けてくる、とドライヤーを洗面台に戻しに行ったペパーを見送り、ソファーの足元に伏せっているマフィティフにアオキは声をかける。声をかけられた方は、ぱたん、と尻尾を一度振って顔を上げる。
「今晩、ペパーさんを独占してもよろしいでしょうか」
「……」
「だめでしょうか」
「……ばう」
「問題ない、ということでよろしいでしょうか」
「……ばうふ」
「ありがとうございます」
ペパーのポケモンのことなら任せておけ、と言わんばかりに、マフィティフは一つ小さく吠える。そのまま眠そうにしているヨクバリスの首を軽く咥えると、ポケモンたちのための部屋として開放している一室に向かっていく。空気が読めるいい子が多いペパーの手持ちたちは、それで察したようにそろそろとマフィティフの後ろをついていく。
自分の手持ちたちにも今日は一緒に寝ないのが伝わったのか、アオキの手持ちたちもまた部屋に入っていく。ネッコアラだけはアオキの膝の上から離れたがらなかったが、ムクホークがひょいと持ち上げ、ノココッチの背中に乗せる。そのままノココッチに運ばれるネッコアラを見送り、ペパーがリビングに戻ってくるのを待つ。
廊下寒い、とぱたぱたと戻ってきたペパーは、みんなはどうしたんだ、とソファーに座りながらアオキに尋ねてくる。今日は寝るようです、と返事をすれば、早寝ちゃんの日なんだな、と何一つ疑うこと無く信じる彼に愛しいという感情が募っていく。
「ペパーさん」
「ん? 改まってどうしたんだよ」
「今晩、自分に独占されてくれませんか」
「え……っと?」
「有り体に言いますと、こういうことがしたいです」
そう言うが早いか、行動を起こすのが早いか。アオキは噛みつくようにペパーの唇にキスをする。ついばむように何度も口づけを落としていく。少し開いたペパーの口内に、肉厚な舌をねじり込む。彼の縮こまった舌にからめて、吸い上げる。鼻で呼吸することすら忘れたペパーが、息苦しさからアオキの胸板をとんとん、と叩く。力ない抵抗に押されたようなそぶりで、アオキはペパーの口を開放してやる。
銀の透明な糸が二人の口を結んで、ふつりと途切れる。ペパーは深く呼吸して、息を整える。生理的な涙を浮かべた彼に、ささやかに嗜虐的な気持ちがむくりと起き上がりかけるのをアオキは感じる。
「そ、そういうのはさ……」
「だめ、でしたか?」
「だめ、じゃないけど……その……」
「その、なんでしょうか」
「こっぱずかしい、っていうか……改まってそう言われると、なんていうか……その……」
「いつものようなパターンを繰り返していては、食傷気味になるかと思ったものですから、趣向を変えてみたのですが……」
お気に召しませんでしたか。
そう言ったアオキは、少しだけしょんぼりとしたように見えて、ペパーは新鮮で嬉しいけど、と前置きをしてから、いつもみたいにベッドの上で言われる方も好きだから、と普段のアオキの声よりも小さな声でぼそぼそと返事をする。それが微笑ましくて、アオキはペパーの額に口づけを落とす。
「ダメですか、自分に独占されてほしいのですが」
「……だめじゃない。オレもアンタに独占されたい」
「ありがとうございます」
「へへ……あの、さ」
実はもう、準備したんだ。
そうアオキへ耳打ちしたペパー。その言葉を聞いて、アオキはソファーから立ち上がり、ペパーの手を引く。手を引かれて立ち上がったペパーは、彼に右手を引かれたままリビングの照明と暖房の電源を落とす。一気に暗くなった部屋の中をするり、と歩いて行くアオキに続いて部屋を出る。冷え切った廊下を渡り、寝室に入る。うっすらと間接照明の明かりだけが灯されていて、夜の長い時間を過ごすのだと知らせるような明るさに、ペパーはくらくらしそうになる。
シーツの上に転がされても、夜の冷たさを感じない程度にはシーツは暖められていることに気遣いを感じる。そういえば、部屋に入った時に暖かさを感じた。もしかしたら、風呂に入る前から部屋を暖めていたのかもしれない。スマートな気遣いと雰囲気作りに、ペパーは余計にくらくらしてしまう。
Tシャツを胸元までたくし上げられ、胸の頂を吸われる。同年代に比べれば筋肉質なペパーの胸筋を寄せあげたアオキは、甘い菓子を貪る子どものように左の乳首に吸い付いては、じゅ、と強く啜る。そのたびにペパーは、小さな突起からびりびりと脊髄を走り抜ける快楽に、びくりと身体を跳ねさせる。
じりじりとした快楽を積み上げながら、ペパーは自分の下半身に熱が集まるのを、ぼんやりとした頭で理解する。
「あ、ふぁ」
「気持ちいいですか」
「左ばっか、り、ゃあっ♡」
「分かりました。右側もですね」
アオキが吸い付いていたから、唾液でてらてらとしている、ぽってりと膨らんだ左の乳首に指先を当てがいながら、彼は右側の乳首を甘噛みする。同時に濡れた左の乳首を押し潰す。
同時に襲ってきた快感は、背筋を走り抜けると、熱を集めていた陰茎から、ぴゅく、と白い液体を下着の中に吐き出す。触れられることなく達してしまったことをぼんやりと気がつき、まって、と回らない呂律でアオキを静止しようとするペパーだったが、彼はそのまま右の乳首を甘噛みしては、舌先で膨らんだ肉芽を押し潰したり、転がしている。
胸元にある、意外とふわふわとした黒い髪を抱きしめて、ペパーは止めてくれない胸からの快楽に再び下半身に熱を集めることしかできない。やら、やら、と回らない呂律で拒否を示し、頭を振って快楽を逃がそうとしても、存外に意地の悪い男は気が付かないふりをしてくる。
再び吐き出された精で下着がぐちゃぐちゃに汚される。肺にいっぱいの酸素を取り込んでいるペパーを見下ろしながら両の胸を開放したアオキは、ぐったりした彼の下衣を脱がせる。濡れそぼった下着も脱がせれば、白い精で汚れた象徴が、かわいらしくぴんと勃っている。
誰にも使ったことがない、今後も使われることのない薄桃色をした性器の下、咥えることを覚えた穴は少し口を開いている。物覚えがいいのはこちらもそうか、とアオキは仄暗い欲を刺激される。
ヘッドボードから使い切りのローションを引き出し、パウチの封を切って手のひらで温める。薄く縦に割れ始めたそこにローションを塗りつけ、ゆっくりと中指を入れる。ぎちぎちと締め上げるような締め付けに眉を顰めながら、アオキはよく知っている、彼のよがる場所へ指先を曲げて押し潰す。うあ、と高い声をあげてペパーは腰を跳ねさせる。広げるように指を動かして、時折彼へ快楽を与えてやりながら、中に入れる指を段階的に増やしていく。
ゆるゆると口が緩んでぱっくりと開いた頃、アオキのそれはすっかり臨戦状態だった。ひょろりと背が高く伸びて、鳥ポケモンを扱うためについた筋肉を持つ男のものは大きく、皮が剥けた先は黒ずんでいる。過去に付き合った女性たちからは無理、と言われる程度には。それでも、ひとつになりたいと、食われたいと言った今の恋人は喜んで受け入れてくれるのだ。それだけでできる範囲で気持ちよくさせたいとアオキは思う。
血管を浮かべた愚息に薄い避妊具を装着して、アオキはシーツに沈むペパーの耳元に口を寄せる。
「腹いっぱいになってください」
「……オレ、今からアオキさんに食われるのに、へんなの」
「自分はあなたを余さず食べ尽くすので、そのお礼にあなたには自分で腹いっぱいになって欲しいんですよ」
「わかるような、わからないよう、な、ァッ!」
ペパーが言葉の意味を理解するよりも早く、アオキはそそり立ったそれをひくつく穴に穿つ。ひゅっ、と息ができないペパーの耳元で、一緒に息をするように抱きしめながら告げる。正常位で奥まで入れられた衝撃で、ペパーの花芯は白いそれを吐き出す。
呼吸が落ち着き始めたのを見計らい、入り口まで引き抜いて、最奥をこじ開けるように腰を動かす。引き抜こうとすれば、抜くなと言わんばかりに中が蠢く。ぎゅうぎゅうと奥に奥にと誘う動きに、アオキは途中で果てそうになる。それを堪えて、しこりごと奥へとピストン運動をすれば、媚びるように胎の中が蠢く。
「本当に……うまそうに食いますね……♡」
「うあ……アぉ、キしゃ、あぁっ♡」
「はい、どうしましたか♡」
「おく、たたく、の、ぉ♡ あぁっ♡」
「はい、奥ですね。こちらがいいのでしょうか♡」
「やら♡ やぁ♡」
「やだ、と申されましても、」
ペパーさんはここで食べるのが、一番好きでしょう。
そう言うと、アオキは最奥をこじ開けるように切先を押し付ける。ぎゅぷ、と先を咥えたそこに、ねじ込むように腰を軽く動かせば、ペパーは駄々をこねる子どものように枕に頭を擦り付ける。そのくせ、アオキの背に回った腕は離すものかと爪を立てている。
開けるように要求し続けて、開かせたそこに切先を捻り込めば、ペパーは首をそらして涎を垂らして絶頂する。花芯からは精も出ずに、中は搾り取るように蠢く。締め付けに抗うことなく、アオキは避妊具越しに欲を吐き出す。薄いラテックス越しに吐き出された熱を感じながら、ペパーは快楽の衝撃に脳をショートさせる。ぱたん、と背から落ちた腕の音を聞きながら、アオキは萎えた自身を引き抜く。
避妊具の口を縛ってゴミ箱に放り込む。まだ腹に欲が渦巻いているが、流石に意識を飛ばすほどに快楽の渦に叩き落とされた恋人に無体を働くのはアオキの本意ではない。
故に、意識のないペパーの太ももを合わせて生まれた柔らかい肉の隙間に、いまだに余裕のある肉棒を突き立てる。数度擦り上げて太ももに迸る欲をぶち撒ける。たくし上げただけのペパーのTシャツに欲望が少し飛んでしまったが、脱がして洗って仕舞えば問題ないだろう。どうせ、この後はシーツを張り替えて、汚れたものは全部洗濯物として洗うのだ。
萎えた愚息を下着に納めて、アオキはペパーの身体を拭うためのタオルを作りに部屋を後にする。洗面台でお湯を出し、タオルを濡らす。ぎゅっ、と絞って二枚ほど濡らしたタオルを作ると、アオキは蛇口を閉めて寝室に戻る。
寝室に戻ると、意識を取り戻したらしいペパーが起き上がって、ベッドの上で座り込んでいた。まだぼんやりしているように見えるのは、先ほどの快楽が残っているからかもしれない。
「大丈夫ですか?」
「ん……けほっ、体がベタベタちゃんだ……」
「タオルで拭いますね。失礼します」
「んー……」
アオキにされるがままに身体を拭われるペパー。ついでに汗でぐちゃぐちゃになったTシャツも脱がされる。少しさっぱりしたペパーは、喉をさすりながら、腰も喉も痛い、とうろんげな目でアオキを見る。
「アオキさん、本当にその……意地悪ちゃんだよな」
「ペパーさんがかわいらしくて、つい」
「可愛くねえって、けっほ、こほ」
「水、とってきます」
「ありがと」
キッチンに水をとりに行ったアオキを見送り、ペパーはごろ、と横になる。互いの体液やらローションやらでぐちゃぐちゃになったシーツは心地よさとは真逆であるし、拭い清めた身体を汚してしまうが、腰の鈍い痛みを押してまでシーツを取り替える気は起きなかった。無茶をさせたアオキにシーツの交換はやらせようと考えていると、ペットボトルのキャップを開けながらアオキが寝室に戻ってくる。
汚れたシーツの海でペパーが寝転んでいるのを見た彼は、少し立ち止まって、寝室の扉を閉めるや否やヘッドボードにペットボトルを置くとペパーをうつ伏せにひっくり返す。嫌な予感がしたペパーだったが、止めるよりも早く背中に体温を感じる。なんなら、臀部に一際高い熱を感じる。
「え」
「……すみません」
「元気ありまくりちゃんかよ……!」
「夜は長いですし、それに、今晩は自分に独占させてくださるのでしたよね」
「それは、そう、だけど……」
「では、何も問題ありませんね♡」
ヘッドボードから新しい避妊具を取り出したアオキは、手早くそれを臨戦状態の愚息にとりつける。枕に顔を埋めながら、ペパーは自分に興奮する男に興奮して胸が高鳴り、下腹部がきゅん、と疼くのだった。