「お好み焼き作れる?」
「作れるが……どうした」
「いや、食べたいなーって」
「そうか。なら、夕飯はお好み焼きにするか」
「やった!」
粉物って時々無性に食べたくなるから不思議だよねえ。そう言いながら巣鴨は横になったまま腕を伸ばす。天井に向かって伸ばされた腕を見ながら、そんなものか、と晶は尋ねる。欲求が乏しい彼女からすれば、何かが食べたい、と積極的に教えてくれる巣鴨は不思議で仕方がない。彼女が一人で暮らしていた時は、それこそ賞味期限順に消費していくのが料理だったからだ。
そんなもんだよ、と笑いながら巣鴨はごろんと横になっていた体を起こす。たこ焼きとかたまに食べたくなるじゃん、と笑いながら巣鴨は尋ねてくるが、晶としては特に不定期に食べたくなるものがないから分からない。
不思議そうな顔をしている彼女に、晶ちゃんにもそう言う食べ物ができるよ、と巣鴨は頷く。
「ところで、お好み焼きの材料あるの?」
「ある。長芋も買ってきたしな」
「そっか」
「買い物に行きたかったのか」
「んー。ないなら行きたいなー、くらいだったから平気だよ?」
ショッピングはなんでも好きだけど、行かないっていうのもそれはそれで嫌なわけじゃないしね。
そう話す巣鴨に、そうか、と返して、付き合うのは嫌いじゃない、と付け加える晶。それならよかったよ、と笑いながら、巣鴨はテレビを見る。六時台の情報番組が始まったテレビを見ながら、俺も手伝うよ、と巣鴨はわきわきとやる気を漲らせた目で晶を見る。そうか、と頷きながら、晶は立ち上がる。
キッチンに向かう彼女を追いかけながら、巣鴨は豚肉とキャベツとあと何を使うの、と尋ねる。冷蔵庫から薄切りの豚肉と小口切りにしておいた青ネギの保存容器を取り出しながら、晶は答える。
「薄力粉と天かす。紅しょうが、青ネギだな」
「そこに長芋かあ。色々入ってるんだね」
「そうだな。豚肉を三等分に切ってくれ」
「まかせて!」
包丁とまな板を取り出した巣鴨は、やる気満々でこのくらいが三等分かな、と言いながら豚肉を切っていく。その間に晶は薄力粉を篩にかけて、ついでにキャベツを粗く刻む。手慣れた手つきで刻んでいく晶に、すごいね、と言いながら辿々しい手つきで巣鴨は肉を切っていく。
「ゆっくりでいい。怪我をするなよ」
「もちろん! ……よし、これで全部かな」
「おつかれ。次は長芋をすりおろしてくれるか」
「分かったよ」
すりおろすアレどこ、と野菜室から長芋を取り出す巣鴨に、晶はキャベツを刻む手を止めておろし器を用意する。さりさりとすりおろし始める巣鴨をよそに、キャベツを刻み終えた晶はそれをまな板の上でまとめる。ボウルに水と顆粒だしをいれてよく混ぜると、卵と薄力粉を入れる。すりおろし終わった長芋もそこに混ぜると、混ぜろと晶はボウルを巣鴨に渡す。
さくさく、くるくると滑らかになるように混ぜていく。個々として存在していたそれらが、液として卵色に染まっていくのを見ながら、巣鴨は混ぜ終わりそう、と晶に嬉々として告げる。
そうか、と返事をしながら、混ざったところに刻んだキャベツと青ネギをどさりと投入する。これも混ぜるのかあ、と混ぜていく巣鴨に、お好み焼きの中にキャベツはあるだろう、と晶は教えてやる。それもそうか、と言いながら、えっちらおっちらと巣鴨はお好み焼きの材料を混ぜていく。
「二人分でも結構な量があるのに、これ家族全員分ってなるとなかなかいい量になるね」
「混ぜるだけとはいえ、なかなかな」
「混ぜちゃえば、あとは焼くだけだもんね」
「……ひっくり返してみるか?」
「……お手本見せてね」
混ぜ終わった具材を、油と共に温めたフライパンに落としていく。円形に形を整え、紅しょうがと天かすを乗せた上に更に豚肉を乗せて焼く。
裏面に焼き色がついたのを確認して、晶はひょいとフライ返しでこともなげにお好み焼きをひっくり返す。反対側を弱火で焼きながら、フライパンに蓋をする。中まで火が通るのを待ちながら、晶はこうひっくり返す、と告げる。
「一瞬すぎて分かんなかった!」
「そうか」
「いや、でもひっくり返すだけでしょ? 俺だってできるよ、うん。たぶん、きっと」
「難しいことはない。簡単だぞ」
「その言葉、信じるからね!」
一枚焼けたお好み焼きを皿に移して、二枚目のお好み焼きの具材をフライパンに流し込む。同じように紅しょうがと天かすを乗せて、豚肉を乗せる。
その間も、巣鴨はソワソワとしっぱなしである。早くひっくり返したいという気持ちがありありと伝わってくる。晶はそんなに面白いのか、と不思議に思いながら、フライ返しで軽くお好み焼きを持ち上げて裏側を確認する。いい焼き色がついている。
返していいぞ、と晶が教えると、巣鴨は恐る恐る、それでいながら勢いよくひっくり返す。べちゃ、と潰れた音を発しながらもフライパンの中で上下を入れ替えたお好み焼きは、そこまで悲惨的な様子は見られない。それにほっとしたように巣鴨は安堵のため息をつくものだから、晶はたかだか一枚お好み焼きをひっくり返しただけだろうに、と不思議な顔をするのだった。