手に届く夢見事―5

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 お土産です。
 朝、いつも通り出勤し、真っ先にポケモンリーグの四天王たちの休憩室に向かったアオキは、プレスクールが創立記念日で休みだと言うポピーに抱えていた段ボール箱みせる。興味津々な彼女にも見えるようにしゃがんで開く。そこに入っていたのは音符模様が描かれたマットや、メタモンとみがわり人形を模したぬいぐるみ。ぬいぐるみを受け取ったポピーはひとしきりはしゃいでから、マットについて尋ねる。

「音が鳴ります」
「まあ! 素敵なマットですのね」
「こちらのマットはきらきらします」
「まあ! そちらも素敵なマットですの!」

 早速床にキラキラマットを敷いたポピーは、おいでなさーいな、と手持ちのポケモンを呼び出す。モンスターボールから飛び出してきたデカヌチャンは、珍しいマットに興味はあるようだが踏む様子は見られない。
 ポピーが試しに踏んでみせると、きらきらとしたエフェクトが宙を舞う。楽しくなったのか、ポピーは何度かマットを踏んできらきらのエフェクトを楽しんでいると、これはおもちゃなのだと理解したらしいデカヌチャンも興味深そうにマットを踏む。
 物理的にきらきらした同僚に、喜んでもらえてよかった、という気持ちでアオキは抱えていた段ボール箱を床に置く。残念ながら、そろそろ出発しなくてはいけない時間が迫っていた。哀しきかな、社会人とは無限に自由な時間はないのである。
 これはチリさんに、これはハッサクさんに、と共有用のマットとは別に分けた袋を指差せば、ポピーは来たら渡しておきますの、と元気に返事をしてくれる。
 礼を言いながら、アオキは胸ポケットに入れていたバイブルサイズの手帳を開いて、ペンを走らせる。四天王の皆さんへ向けてのペパーくんからのお土産です、とフリーメモページを一枚破ると段ボール箱にそれを貼りつける。
 それでは自分はこれで、とポピーに一声かけてアオキは四天王たちの休憩室を後にする。おじちゃんがんばるですのー、とポケモンたちと遊んでいるポピーの楽しげな声を背に受けて自動ドアをくぐる。
 眩しい日差しを受けながら、今日の午前中の予定をアオキは脳内で反芻する。今日も順調に仕事が片付いたのなら、ペパーが起きている時間に電話をかけるくらいは出来るだろう。
 そう考えながら、チリやポピーたちへのお土産はきちんと渡しました、とそっけないメッセージを送る。そして、次の休みにもまた自宅に来るのか、急ぎでないからあとで電話で確認しようと考えながら、そらをとぶタクシーにアオキは乗り込むのだった。

 *

 ペパーがその動画を見たのは昼下がりのことだった。
 いつものネモ、ハルト、ボタンたちとお手製サンドイッチを食べているときに、バズってる動画なんだけどさ、とボタンが見せてきたのだ。
 赤みがかったサングラスに、ピンクブラウンの髪をツインテールにしたハルトが、かわいいやつかと尋ねてくる。自身のかわいい容姿を含めて、無類のかわいいもの好きな彼にとって、バズった動画だろうとかわいくなければどうでもいいものである。ネモはポケモン勝負かな、とワクワクした顔をしている。マジネモいわ、と言いながら、ボタンはバズり動画を見せてくる。
 それはパルデアポケモンリーグの四天王たちが共同運営している、ポケッターと呼ばれるソーシャルネットワーキングサービスのアカウントだった。ここ最近はあまり動かされていなかったアカウントだが、今日の朝投稿があったらしい。
 チリちゃんちょっと感動したわ、というコメント付きで載せられた件の動画は、三十秒ほどの短い動画だった。金の髪をまとめた男性が、せーの、と言うと、ポケモンたちが順番にマットを踏むだけの動画だった。
 それはただのマットを踏んでいるわけではないらしく、チープな音が鳴っていた。続けて踏むから、ちょっとしたメロディーラインを奏でている。そういえば、最近テレビで流れている、ナンジャモが出演しているテレビコマーシャルの音楽に似ているような気がする。
 アップリューとデカヌチャンがアップで終わるその動画に、ハルトは大きな声でかわいい、と叫ぶ。うるさい、と嫌そうな顔をしたボタンに、アドレスくれ、とスマホロトムをむけている。あたしも教えて、とネモもスマホロトムを向ける。わかったわかったとアドレスを共有する三人をよそに、ペパーは思い当たる節がありすぎてテーブルに突っ伏してしまう。
 そんな彼に、ハルトはサングラスのレンズを煌めかせながら、なるほどね、と呟く。

「お、これはパイセン思い当たる節があるやつでは」
「そういやペパー、最近休んでたよね」
「え、この動画にペパー噛んでるん?」
「オレは絶対噛んでると見たね。実際どうなん、パイセン」
「……ノーコメント!」
「あ、逃げた」
「こらー! 待て! パイセン、答えてから逃げろ!」

 逃げるペパーとツインテールを揺らして猛然と追いかけるハルトを見ながら、ネモはポケモン勝負で吐かせればいいのに、と言うものだから、ボタンがドン引きしたような、同情したような顔をするのだった。