title by Cock Ro:bin(http://almekid.web.fc2.com/)
「ただいまぁ」
程よい冷房が効いた自宅に帰った巣鴨は、疲れたよぉ、と情けない鳴き声をあげながら玄関のドアを施錠する。
へにょへにょとした疲れ切った顔をした彼は、トートバッグを抱えてリビングに向かう。靴下を脱ぎ、左手に持ったまま素足でリビングに向かうと、ちょうど晶が夕食を並べているところだった。
おかえりの言葉に続いた、靴下は洗濯機、にもちろんだよ、と返事をして脱衣所に向かう。ドラム式洗濯機に靴下を放り込むと、ついでに手を洗ってうがいもする。幼い頃から徹底してきたおかげで、巣鴨は二十六になっても風邪知らずだ。
習慣ついたそれをおこなってからリビングに戻ると、机の上に置かれた袋に気がつく。少し膨らんだ、雑に置かれたドラッグストアの色の濃い袋。興味が湧いた巣鴨が見てもいいか尋ねる前に、ピンポーン、とインターフォンが鳴る。続いた宅配業者の名前に晶が反応する。
「すまない。手が離せないから、代わりに出てくれ」
「おっけー。何か頼んだの?」
「まあ、少しな」
「ふーん」
口を濁した晶に、説明しにくいものなのかな、と思いながら、巣鴨は印鑑を片手に玄関を開ける。片手で抱えられる程度の段ボール箱を受け取り、受領印を押す。
荷の受け渡しを終えた業者が立ち去り、巣鴨は玄関を施錠し直す。軽いそれに、何が入っているのか興味をそそられた巣鴨は、開けたいと晶に了承を取ろうとする。
冷しゃぶサラダを作っていた晶は手を止めると、なんとも言えない表情を薄く浮かべた無表情で巣鴨を見る。珍しい顔をしたなあ、と思いながら、彼はカッターナイフで段ボールを固定するガムテープを切っていく。
伝票には精密機械、とだけ書かれていたから油断したのは大いにある。そして、まあ、それはあながち間違いではないということも、あけてから気がつくのだった。
「……えーっと……晶ちゃん……?」
「あー……」
「……なにか……いうことがありましたら……」
「……セックスにスパイスを添えようと思ってな」
「十分すぎるほどスパイスはありますけど!? おしりに物突っ込む時点で、だいぶアブノーマルだからね!?」
「む……いつも同じものだと、さすがに飽きるかと思ったんだが」
「飽きてないよ! 飽きてない! 普通のえっちだって、晶ちゃんノリノリで絞ってくるから、むしろこっちの方が飽きられてないか不安だよ!」
たまには攻めさせてほしいです、と伝えてくる巣鴨に、頑張れ、とだけいう晶。彼女は巣鴨の生ぬるい攻めでは到底満足できないことは、初夜の時点で分かっているのだ。
サディストではないし、性欲が強いわけでもないが、どうせならば気持ち良くしたいという奉仕欲はある。それの発揮の仕方が、男性の菊門を開発することに使われているだけで、いたって彼女はまともな性癖の持ち主だ。多分、きっと。
冷しゃぶサラダの乗った大皿を置きたいからゴミを片付けてくれ、という彼女の指示に従う彼は、ちなみに今日使うご予定は、と消え入りそうな声で尋ねる。
使って欲しいのか、と返事をした彼女に、滅相もないです、と巣鴨は間を置くことなく否定する。
「なんかめっちゃピンクだし、いぼいぼしてるじゃん……え、これってさあ……」
「雄大の腹に入れるが」
「ですよねえ! え、めちゃくちゃ長いし大きいけど入るの……?」
「今の大きさでも十分入った。これも入るようになる」
「さようですか……うう……僕のおしりが知らないうちに変わっていく……」
ディルドとアナルパールのどちらにするか迷ったんだが、と続ける彼女に、晩ごはんだからえっちな話はやめようか、と顔を真っ赤にした巣鴨は、炊き上がった白米をよそうためにいそいそと立ち上がる。
アブノーマルな性癖が、もとより晶にあったわけではないが、過去に同性とも付き合っていた彼女からすれば、行えないわけではないに括られていた。
巣鴨と付き合って初めてのセックスの日に、童貞だった彼を卒業させたのだから、あとはお互いが満足できるセックスをするだけである。もとより、それに関しては二人で話し合って決めたことだ。その中にアブノーマルな行為が含まれるとは、その時の巣鴨は気がついていなかっただけで。
初めのうちは無理だ入らない、と泣いていた彼のまっさらな身体を自分好みにすることが楽しくて仕方がない。これが征服欲か、と晶が考えていると、ご飯はこのくらいでいいか、と巣鴨は茶碗を見せてくる。
八割盛られたそれに頷けば、俺もこのくらい、と同じくらいの量を巣鴨自身の茶碗に盛り付ける。
「んもー。ご飯がおいしいけど、ご飯の前にあれを見ちゃったからなあ……」
「すまないな。まさか一番遅い時間を指定したが、今届くとは思ってなくてな」
「別にいいよお」
「ところで、アダルトグッズのことなんだが」
「んもう! ご飯食べながら何を言ってるんだい!」
「すまないな。尻尾のついたディルドを買いたいと思っていてな」
雄大は猫と犬なら犬でいいと思うんだが、と巣鴨の言葉を無視した彼女に、小型犬扱いされた、とお茶を飲みながら巣鴨はぶう、と膨れる。
その頭をぽんぽんと撫でながら、晶はあとで尻尾の色を考えたい、と告げる。自分の臀部にささる夜のおともを自分で選ぶのか、と頬をひくつかせた巣鴨。しかし、開き直ったのか、どうせなら可愛いのがいい、と豚肉を頬張りながら返す。
「かわいいものか」
「そうだよ。晶ちゃんが選ぶのってゴツいじゃん?」
「そうだろうか」
「ていうか、僕もそういうのは全然知らないし……興味がないわけではなくて……」
「そうか。興味があるのなら、話は早いな」
「うーん、前向き。まあ、自分の身体に使われるものだしね」
自分で色々と見るのは大事だよね。そう頷いた巣鴨に、晶は内心、ちょろいなと思う。このちょろさなら、そのうち陰茎に触れなくても達することができる身体に仕立て上げられるのではないか――以前付き合っていた男たちではできなかったことを考え、近いうちに実行しようと味噌汁を啜りながら思う。
決して口にはそんな考えなど出さずに、晶は見ているだけでも楽しいと思う、とだけ返事をするのだった。