アオキは隣に座って本を読んでいるペパーを見る。長い手脚は脂肪と筋肉が程よく、それでいて素晴らしいバランス感覚で乗っていて、アオキ好みの柔らかさを持っている。アオキの太ももに触れる太ももと尻は、年頃にしては育っている。布越しに触れ合う今では分からないが、実際に触れたならむちむちとしていながら、よくよく煮込んだ肉の柔らかさを彷彿とさせる。捏ねたての餅を思わせるような柔らかい肉は尻だけではなく、胸にもたっぷりとついている。
ふかふかと柔らかく、それでいてもっちりと反発して、クリーミーでまったりとした脂肪のある胸と尻のせいで、相対的に細く見える――実際細い腰。胸の肉に引っ張られた服の布でちらりと見えるその腰は目に『どくのこな』どころか、『どくどく』をもろに食らうようなものだ。
アオキは隣に座って本を読むペパーの肩をとんとん、と叩く。あの、と声をかけると、キリのいいところまで読んだらしい彼女が顔を上げる。
少女が抜けきらないまろやかな甘さの残る顔立ちは、確かに女性へと花開こうとする美しさがある。吸い込まれそうなほどに大きく、透き通ったナッペ山の空よりも青い目。そしてそれを彩る、ムクホークやウォーグルの爪を連想させるはっきりとした長いまつ毛。
ぱち、と瞬きする彼女に、ああ綺麗だな、と何度も思った言葉を脳裏に繰り返す。自分の顔の良さなど、アオキに好まれていれば十分程度にしか認識していないペパーは、呼びかけたまま静止したアオキに声をかける。
「アオキさーん?」
「! ああ、すみません」
「どうしたちゃんだぜ、呼んだのはそっちなのに」
「あなたが綺麗で、つい見惚れていました」
「んなっ! アオキさんだって、オレの好みの顔だなって思うぜ? 重力に引かれるきのみみたいに、強烈で抗えなくて――」
「わかりました。愛の言葉は後ほど全文お伺いしても?」
「……ん」
アオキはペパーの言葉を遮り、(パルデア人はみなこうなのだろうか、といつも思う。大穴での一件はポケモンリーグも把握している。しているからこそ、彼女の育ちも聞こえてしまう。あの育ちなのに、愛の言葉はどこから学んだのか、と思うほど情熱的で、カントー生まれのアオキは少し恥ずかしくなる)その服、とアオキはシャツを指差す。
それは変哲のないアカデミーの制服だった。金曜日はアカデミーから直行してくるペパーらしく、制服を身に纏っている。当たり前のことだ。その制服自体には問題はないのだ。着こなしもおとなしいものだ。
問題はサイズにあった。明らかにあっていないのだ。前を開けているベストは、おそらく上まで閉まらない(よくよく育った豊満すぎる乳房もあるのだが)だろうし、シャツは手首が見えてしまっている。
サイズの合わない服は窮屈だ。そのことを人一倍以上背の高いアオキはよく知っている。だからこそ、提案した。
「買い直しますか?」
「でも、もったいないっていうか……せっかく買ったし」
「ですが、卒業までその服では厳しいでしょう。肩周りとか、キツくはないですか?」
「そう言われると、そりゃあ……」
「サイズをきちんと測って、買い直しましょう」
ついでにあなたに似合う服も見繕いましょう。
そう提案するアオキに、流石に私服までは申し訳ない、とペパーは目を丸くして断ろうとする。そんな彼女の手をやんわりと握って、アオキはやってみたいことだったので、と細い手を撫でる。
「好きな人に服を贈ってみたかったんです」
「そう、なのか? ……本当ちゃんか?」
「ええ、本当です。自分はその、あまりセンスのある方ではないと思いますが……」
「……アオキさんが『どうしても』って言うなら、別にいいけどよ……」
「『どうしても』です。あなたに、自分の好みに染まって欲しいんです」
「しゃーねぇなあ……」
いつ買いに行くんだ、とペパーはスマホロトムにカレンダーアプリを開かせる。アオキは業務のスケジュールを書き留めているスケジュール帳を開いて、この日なら、と休みを指定する。ポケモンリーグが管理している屋内外バトルコートの一斉点検のため、ジムも四天王の業務も休みの土曜日だ。
わかった、とスマホロトムに予定を入れたペパーに、そろそろいいでしょうか、とアオキはそっと腰に手を回す。細いその腰を自分に引き寄せ、膝の上に向かい合うように座らせる。むちっ、と肉の柔らかさと愛する人の重さを感じながら、アオキは少し高い位置にあるペパーの顔をじっ、と見つめる。まるで許可を得るのを待つオラチフかパピモッチのようだ。
分かったよ、と呆れたようにペパーが許可を出すと、アオキはそっと腰に回していた手で、ペパーの黄色のベストを脱がせ、シャツの前をいくつか開けさせる。
まろび出てきた白い胸の谷間は、わずかに汗ばんでいる。シャツと下着越しに胸を持ち上げれば、ずっしりとした乳房の重みが手に集まる。
軽く寄せて集めた絶景の中に、アオキは鼻先を埋め、顔全体を突っ込む。むっちりとした汗ばんだ肌が、アオキの少しばかり伸びた髭を受け止める。ふかふかと柔らかいのに、アオキをダメにするためにあるかのような低反発のそれの中で、アオキはゆっくりと深呼吸する。
触れる呼気がくすぐったくて、ペパーは思わず身じろぎする。それでも嫌ではないのか、ペパーは胸元に張り付いたまま動かない男の頭に、そうっと手を伸ばす。そろそろとゆっくりと撫でてやると、深呼吸をしながら埋まっていたアオキが身じろぎをする。
胸にあったアオキの手が、するすると移動してペパーの腰を掴む。彼女の上半身を引き寄せながら、空いた手で尻を触る服越しにやわやわと揉もうとするその手は、少しだけ苛立ったような手つきで移動する。されるがままの状態になっているペパーのベルトを外そうとして、ばう、と声がかけられる。
ペパーの家族であり相棒であるおやぶんポケモンの鳴き声で、ペパーは我に帰る。
「アオキさん! まだ晩飯前!」
「いいじゃないですか。食前の運動です」
「よかない! 今日はアオキさんが食べたい、って言ってたタルトがデザートなんだから」
「なら、なおのこと運動して腹を空かせたいところです」
「ああ言えばこう言う! うん、どうしたらご飯遅くなっちゃうぜ?」
「手伝いますので……」
「うー……」
「ダメですか。できれば、早急に回答をいただきたいのですが」
場合によっては、こちらを落ち着かせる必要があるので。
そう言いながらアオキはペパーの手を引き、盛り上がった自分のスラックスの股座に触れさせる。背丈に合わせたように、人よりも大きく育ったそれは、興奮してさらに膨張している。
アオキは平然とした表情を浮かべながらも、その目は勝負の時のように鈍くぎらついている。射抜くように見つめてくる黒い瞳に、ペパーはうっ、と言葉を詰まらせる。手をはずそうとして、しっかりと手首を捕まれているものだから、手が離せない。アオキはどうしても、と形の良い耳朶に吹き込むように低い声で囁いてみる。そんな彼の様子を見て、マフィティフは呆れたように喉を鳴らしてそっぽを向いている。カラミンゴは無言でアオキをみつめている。ムクホークは頭を抱えて困り果てた様子で、スコヴィランが慰めるように羽の付け根を叩いている。
「だめですか」
「……だめ!」
「それは残念です……」
「無念そうに胸に埋まるのも終わり! あ、こら! 吸い付かないでってば……!」
じゅっ、とペパーのもちもちとした柔らかな胸にキスマークをひとつ付けたアオキは、トイレにいってきます、と不服そうに彼女を開放するのだった。