「マヨネーズを軽く滑らせ……うわっ、ドバッといっちゃった! ……誤魔化せるかな……」
「……パンに水分を吸わせないために塗るのが、マヨネーズなんだが」
「……明らかにマヨネーズで水分吸ってそう!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎながら、食パンにマヨネーズを滑らせていく巣鴨。マヨネーズサンドに出来そうな塗りたくり方に、晶は思わず口角をわずかに上げてしまう。
慣れた手つきで、彼女は茹でたブロッコリーを三センチ程度に粗めに刻む。ざくざくと刻みながら、ゆで卵をフォークで潰すように巣鴨に指示を出す。それを見た巣鴨は、卵でプチプチが覆われないという事実に気がつく。
「俺の予想が……!」
「残念だったな。……ところで、男に二言は?」
「た、食べますとも……! 男に二言はないよ……!」
泣きそうな笑顔を浮かべながら、自分が言った言葉に責任を持とうとする巣鴨に、その姿勢は見習いたいと思うから、おそらくかっこいいに分類されるんじゃないか、と晶は脳内でメモをする。
フォークでゆで卵をせっせと潰す巣鴨の手元に、マヨネーズを加えて混ぜるように指示をする。おっかなびっくり混ぜていく彼の手元を見ながら、ブロッコリーとほぐした甘塩鮭を足す。
具沢山だ、とにこにこしながらかき混ぜる彼に、さっき泣いたカラスがもう笑った、と晶は内心思う。ころころと表情が変わる巣鴨は見ていて飽きない。
晶からすれば、自分とは違って、彼の表情筋がよく仕事をしているが、きちんと残業代は出ているのだろうかと心配になるほどには、巣鴨の表情はよく変わる。山の天気よりもよほど変わる。
冷蔵庫に眠っていた粒マスタードを、マヨネーズを薄く塗った(粒マスタードを塗るついでに、晶が塗ったものだ)ロールパンに重ね塗りする。ブロッコリー多めに鮭と卵をサンドしたものと、ブロッコリー少なめでサンドしたものを用意する。
「おいしそう!」
「……食べるか?」
「うっ……ツナサンドにしたのもあるしなあ……ハンバーグサンドもあるしな……」
「嫌いなものは最後に食べる、か?」
「うううー! 晶ちゃん、俺で遊んでるでしょ!」
「そんなことはない」
「……本当に? 俺の目を見て言える?」
「……」
「こら! 目を逸らさない!」
んもう、と怒りながら巣鴨は不恰好なツナサンドと、比較的綺麗なブロッコリーと鮭のたまごサンドが皿の上に並べる。
それだけではなく、すでに完成しているサンドイッチもある。焼いた鯖を挟んだバゲットサンドに、冷凍のハンバーグを挟んだサンドイッチも別の皿の上に並んでいる。サンドイッチばかりが四種類もあるだけで、壮観である。
作り終えたそれらをリビングのちゃぶ台まで運ぶと、それぞれ座椅子に腰掛けて手を合わせる。
真っ先にハンバーグサンドに手を伸ばした巣鴨に、そうだろうな、と思いながら、晶はブロッコリー多めのサンドイッチに手を伸ばす。
「おいしい! ロールパンに挟むだけで、なんでもサンドイッチだ」
「手軽でいい」
「だねえ。冷凍のハンバーグ、そんなに大きくないから食べやすいし……って、晶ちゃん、相変わらず食べるの早いね」
「ん。うまかったからな」
「早食いは太っちゃうよ。まあ、おいしいとたくさん食べちゃうから、気持ちはわかるけどね」
「ほら、鮭のサンドイッチ」
「うぐっ……! た、食べますとも……!」
ぎくり、と分かりやすく震えた巣鴨は、目をぎゅっ、と瞑るとロールパンにかぶりつく。ゆで卵と甘塩鮭の味が口いっぱいに広がり、ブロッコリーの房の食感が広がる。強く目を瞑ったまま、一息にロールパンを口に入れて咀嚼する。
おいしいけどおいしくない。そうでかでかと書かれた巣鴨の顔に苦笑を薄く浮かべながら、晶は麦茶のコップを差し出す。
「おいしい……おいしいけどさあ……」
「そんなに房が苦手か」
「もうだめ。あのなんとも言えないあの食感がムリ」
「……妹もそう言っていたな。あの房をいつ飲みこめばいいのか分からない、って」
「わかる。房の飲み込むタイミングもさ、よく分からないんだよね。永遠に噛んでるよなって、昔父ちゃんに笑われたなあ」
「笑われても、ちゃんと食べる雄大は偉い。澪はそもそも食べないからな」
「澪ちゃんらしいね……」
麦茶をコップ半分ほど飲み干した巣鴨は、鯖のバゲットサンドに手を伸ばす。苦手なものがないからか、ゆっくりとかぶりつく。素直に顔を輝かせておいしい、と笑う彼に、この顔はかわいい、と晶は脳内で分類する。
作ったたくさんのサンドイッチも、腹をすかせた二人にかかればあっという間に平らげてしまう。このくらい洗うよ、と巣鴨はパンのクズが残った皿をシンクで洗い、水切り台に立てかける。
率先して片付けをするのは躾の賜物だろうな、と晶は感心する。実家の妹は甘えたであるから、自分から片付けなどしないのだ。とはいえ、巣鴨はそそっかしいところがあるから、洗剤がきちんと洗い流せていないこともあるから、どっこいどっこいかもしれない、とすぐに考え直す。
それでも片付けをするだけ雄大のほうがマシだな、と思いながら、戻ってきた彼の頭を一つぽん、と撫でる晶だった。