メイナード=レンブラントの店は雑多なものがなんでもある。一般的な消耗品はもちろん、ちょっとした自室を華やかに見せるためのインテリア家具、魔法を操る制度を一時的に高める薬や、眠気覚ましなどもある。もちろん、薬品に関しては相応の値段がするのだけれども、それでも売れ行きは順調らしい。ときどきマクシミリアンも購入している。今日も今日とてマクシミリアン=イルデブランドはメイナードズショップに足を運ぶ。
「あ、マクシミリアンじゃないか。今日は眠気覚ましか? 精密薬か?」
「どっちでもないな。インクがなくなりそうなんだよ、万年筆の。それを買いに来たんだが……」
「ああ、そういや、お前竜語(ドルンノード)の翻訳家だったな。いつものインクなら、さっき補充しておいたぞ」
「お、そいつは助かるな。ん? 新商品か、あれは」
「気がついたか。それは新商品だぜ」
そういうとメイナードは一番目立つ入口近くに置いてある羽ペンを手に取る。どう見てもただの羽ペンなのだが、それを空中で文字を書くように振るうと、ペンの軌跡をきらきらと七色に光りながら光の粒が追いかける。きれいなもんだな、とマクシミリアンがいえば、ジョークグッズでペンとしては使えないがな、とメイナードは笑う。
「子ども向けのおもちゃだよ。こういうおもちゃを使って、文字を書くのを楽しんで学んでほしいってやつだな」
「なるほどな。文字の読み書きができると、それだけで将来の選択肢が増えるからな」
「そういうこった。店を持つことだってできるわけだしな」
そう笑った彼は、まあお前にはいらねえもんな、とペンを元の場所に戻す。サカティラ族特有の尻尾を振りながら、会計を済ませるメイナード。紙袋にしまわれたインク壺を受け取ったマクシミリアンは、店をあとにする。一緒に街に来ているヴォルフガングを探す。腹が減ったと屋台が出ているあたりに向かっていったのまでは覚えていたものだから、マクシミリアンは面倒くさそうにしながら屋台街に向かって歩く。
屋台街に向かって歩けば、腹をすかせる匂いが鼻腔をくすぐってくる。肉の串焼きを売っている店もあれば、一口サイズに切り分けられたバゲットにチーズやトマト、レタスが乗せられたおつまみもある。仕事が休みなのだろう人々は、昼間っからエールを煽っている。ヴォルフガングもエールを煽っていそうだな、と思いながら歩いていると、案の定酒の入ったグラスを持ったヴォルフガングが肉の串焼きを食べているところに遭遇する。弱くはないことは知っているが、酒に強くもない事も知っているものだから、マクシミリアンはヴォルフガングの肩をたたいて帰るぞ、と帰宅を促す。
「んだよ、もう買い物終わったのかよ」
「インク買うだけだったしな」
「もっとなんか買うもんあんだろ? 紙とか」
「紙はこの間補充したからな。そのときにインクも買っておくべきだったんだがな…‥」
「ま、買うもん買ったんだったら帰るか。酒も飲んで満足したしな」
「……で? お前、何本串食ったんだ?」
六本!
意気揚々と答えてくるものだから、マクシミリアンは頭を抱えたくなる。昼飯はこいつの分は作らなくていいか、と考え直すと彼はヴォルフガングに、それだけ食べたなら昼飯はいらねえだろ、と突き放すのだった。