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今年の夏はこれで終わり

2023 9/05
サンハ=ユアニルの麓にて
2023-09-05

 サンク・キタテウェルトの夏は短く涼しい。もとより、三方を山で囲われ、残りの一方だって海に面している国なのだ。ましてや、国境沿いの山にあるサンハ=ユアニルの街になれば、夏といえば短い季節だ。その代わり、冬はひどく厳しく長いのだが。

 ……閑話休題。
 短い夏の間に行うことと言えば、多く採れる夏野菜でつくる保存食だ。それは大喰らいのヴォルフガングはともかく、同じだけ食べる体格のいいマクシミリアンだってそうだ。トマトソースの保存食を一日かけて先日作ったマクシミリアンは、庭先に咲いた大葉をみじん切りにしている。
 さくさくとんとんとみじん切りにした彼は、それを常温に戻したバターと混ぜ合わせる。ボウルの中に両方を放り込み、満遍なくヘラで混ぜ合わせ、保存用の容器に密閉して詰めていく。
 この大葉のバターは行きつけの雑貨店であるメイナードズ・ショップで教わったものだ。爽やかな香りとバターのコクでピラフがよりうまくなるぞ、と唆されたのが先日のことだ。
 たしかに彼がそういうように、香りがとてもいいものだから、今日の夕飯に使ってしまおうかと思うほどだ。まだまだ大葉は繁っているのだから、少しくらい使う分には別にいいだろう。もっとも、この香りの良さをヴォルフガングが感じ取ってくれるかはだいぶ怪しいところはあるが。なぜなら、彼は食べることができれば、味は大雑把で構わないタイプの人間だからだ。

「ま、試しに作るのはアリか……そうなると、晩飯はピラフとスープか? メインにパンチがないな……」

 ピラフとスープだけでは物足りないものがある。たしか頂き物の豆と豚肉があったことを、ふ、と思い出したマクシミリアンは、それを使ってメインを拵えることを思いつく。豆にニンニク、トマトに豚肉。味付けは濃いめにしてやれば、野菜を好まないヴォルフガングも黙って食べるだろう。
 今日の夕飯の内容が決まったところで、昼寝から目を覚ましたキーリスがきゃん、と鳴き声をあげる。三つの首を持つ小型犬は、ころころと転がりながら、背中を床に擦り付けている。そういえば、生え替わりの季節なのだろう。短い夏毛の季節だ。

「分かった分かった。ブラッシングしてやるから待ってろ」
「きゃいん!」
「きゃんきゃん」
「きゅーん」

 三つの首がそれぞれ反応する。とてとてぽてぽてと歩きながら、壁に向かってジャンプしている。そこには、ちょうどラギウスの幼犬では微妙に――本当に微妙な高さで届かない位置にリードがくくりつけられている。どうやら、彼(彼らかもしれない)はブラッシングは外で行うものである、と認識をしているのかもしれない。
 たしかに、家の中では抜け毛まみれになるものだから、ブラッシングは外で行うのが常だった。それを理解して、自ら率先してブラッシングのためにリードを取ろうとしているのなら、ずいぶんと感動的だ。
 きゃんきゃんひゃんひゃん吠えながらリードを取ろうとしているキーリスをよそ目に、マクシミリアンは最後の大葉のバターを容器に入れる。ぴったりと空気を抜いて蓋を閉めて、魔導式のアイスボックスに放り込まれる。さてリードを首にまいてブラッシングをしてやるか、と後ろを向くと、キーリスに覆い被さるように大男が座り込んでいた。この家にいる大男は二人居るが、マクシミリアンでなければそれは一人しか居ない。ヴォルフガングだ。

「おいおい、暴れんじゃねえっての」
「なんだ、やってくれるのか?」
「あ? 散歩だろ?」
「ブラッシングだよ」
「あー? 散歩じゃねえのか」
「ぎゃん!」
「お前、ブラッシング下手だから、キーリスが嫌がってるだろ」
「うるせえ! ちっとばかし強くやっちまっただけだろ! 大丈夫だっての、今度は失敗しねえからよ」
「本当かぁ? 怪しいもんだがな」
「うるせー!」
「ぎゃいん! きゃーん!」
「お、逃げてきたな」

 ヴォルフガングの分厚い大きな掌から逃れてきたキーリスは、マクシミリアンのもとに走ってくる。しれっと片側の頭がリードを咥えているあたり、なかなか強かである。
 次はないらしいな、と笑いながらキーリスの首輪にリードを通したマクシミリアンは、コームとスリッカーブラシを片手に外に出かけていく。新しく作ったばかりのウッドデッキに置いたチェアーに腰を下ろして、膝の上にキーリスをおく。肘置きにリードをたるませながらひっかけて、彼はキーリスの全身をコームでやわらかく梳かしていく。されるがままのキーリスは、気持ちよさげに呑気にあくびなどしている。
 できかけている毛玉を梳かしてから、スリッカーブラシで毛の流れる方向に沿ってブラッシングする。ことのほか毛玉が出来やすい脇や耳の裏、お尻やしっぽ、腹をしっかりとブラッシングする。死んだ毛がもさもさと抜けていくものだから、ブラシから毛を取り外してはマクシミリアンは、よく抜けるもんだ、と感心する。

「三日前にもブラシかけてやったんだがな……」
「きゅーん?」
「お前、本当に毛が抜けるな、って話だよ。このままはげにならないよな?」
「きゃん?」
「ま、こんだけ毛があればはげることもないだろ」

 スリッカーブラシであらかた梳かして、コームで仕上げと言わんばかりに丁寧にブラシをかける。マクシミリアンの周辺に琥珀色の抜け毛がこんもりと出来上がったが、それに比例するようにラギウスの幼犬の毛並みはつやつやのぴかぴかになっているのだった。

サンハ=ユアニルの麓にて
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