どうせなら一途に憎んで

Final Fantasy XIV
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title by scald(http://striper999.web.fc2.com/)

 ゴドフリーがメモを古びた教本に挟んだ翌日、出勤前にそっとアジトに向かって確認すればそこには白い一筆箋が挟まれていた。これ見よがしに挟まれていたものだから少し驚いてしまったが、用紙を引き抜いて内容を確認する。相変わらず読みやすく、それでいて流れる水よりも美しい文字列に感嘆すら吐いてしまう。あの乳母はとにかく文字を綺麗に書くことを教えてくれたものだ、とゴドフリーは記憶の彼方で擦り切れかけている乳母の顔を思い出す。
 
 その紙を引き抜いたのは数日前のことだ。そして、今、ゴドフリーは目の前に立つ母の面影を色濃く残した男を見る。彫りの深い顔立ちに赤い瞳。父親譲りの色味である自分にはない色に母を思い出して気が狂いそうになる。この男に才能を見出し、開花させるために母親は自分を見なくなった。その事実をまざまざと見せつけられるようだ。
 苦々しい顔をしていたのだろう、薄く微笑みを浮かべていた男は、兄様怖い顔ですよ、としっとりとした声で話しかけてくる。耳障りの良い声に、それにすら苦々しさを覚える。

「まさか来てくれるとは思っていなかったよ、シャーロット」
「呼び出したのはそちらでしょうに。随分とまあ探していたようですけれど、何の用ですかね」
「とぼけないで貰おうか。分かっているだろう。妹の……コーディリアの死のことだ」
「ああ……あれはまあ、その。半分ぐらい私に非がありますよ」
「半分?」

 目を伏せて悲しげにシャーロットは告げる。その姿にほだされそうになりながら、ゴドフリーは話を続けるように促す。
 シャーロットは告白をしてきた女性が実は相手がすでにおり、浮気に気がついた相手のツレが逆上したのだ、と薄皮に包んだ事実を告げる。あくまでも自分は被害者である、というのを強調しながら。実際のところは、彼には相手がこぶがついている、小児性愛の貴族女性だということを知っていたのだけれども。火遊びがすぎたな、というのがシャーロット……シャルロッテの今の感想だ。
 火遊びの結果、妹が貴族の男が差し向けたならずものに回されたことも、あげく死んだことも自分に非はあるが、抑えきれなかった相手にも非があるとシャルロッテは考えている。彼からすれば、妹はただ巻き込まれただけの哀れな人間にすぎない。しかし、ゴドフリーからすれば母にそっくりの容姿の妹が亡くなったのは青天の霹靂もいいところだっただろう。
 だというのに、ゴドフリーはシャルロッテの、ともすれば作り話にも聞こえる話を聞いて、ひとつ頷くだけにとどめている。さすがにこれは兄も怒るかも知れない、とシャルロッテが内心わくわくしていると、けらりとした声が返ってくる。

「……わかった。お前がそう言うのなら、そうなんだろう」
「兄様、ちょっとそれは信用しすぎでは?」
「お前は昔から嘘は言わなかっただろう。それを私は信じるよ」
「……だから貴族向いてないんだよ……」
「何か言ったか?」
「なにも?」

 完璧な微笑みを浮かべて返事をするシャルロッテに、そうか、とゴドフリーは納得する。貴族であれば、彼らが浮かべる微笑みは無表情を意味することなどわかりきっているだろうに、ゴドフリーは気がつかないふりをしているのか、本当に気がついていないのかはシャルロッテにはわからなかったし、分かろうとも思わなかった。
 なぜ、あのときあの場所に残らなかったのか、と問われる。ただいなくなるだけならば、いくらでもタイミングはあったはずだ。それこそ、竜の眷属との戦いの最中に死を偽装することでもよかっただろう、と。
 そう問われると思っていたシャルロッテは、けらりと当時から思っていたことを口にする。

「最悪の場面でいなくなったら、さすがに兄様も怒るかなって」
「……は?」
「だって、あんた、昔から良い子ちゃんだったじゃないですか。母様に見て貰うために、父様に褒めて貰うために努力をしてきて、ひたすら善性を磨く良い子ちゃんで……なんていうか、ちょっと気持ち悪かったんですよね」
「なにを……いって……」
「どうせ、今だって『家族だから憎んではいけない』『家族だから愛さなくてはならない』って思っているんでしょ。そういうところがさ、息苦しいんですよ。見てるだけなら息苦しくないんですけど、あんた、無意識でしょうけど押しつけてたんですよ、俺にも」
「……」
「そんなに母親に見て欲しかったんだったら、素直に言えば良かったでしょ。俺のピアノ練習だって何時間あったとしても、朝から晩までやっていたけれど、母様がひとりになるタイミングはあったのだから、そのときに尋ねれば良かったはずだ。自分のために弾いてくれと」
「それは……母上だってお休みになりたい時間があっただろうから……」
「こどもがわがままを言うのは、それが仕事だからでしょうが。あんたのそういう、欲しいものに手を伸ばさないくせに、他人には押しつけるだけ押しつけて、それの見返りはほしいっていう態度が気に入らない。だから、最悪のタイミングで消えたんだよ」

 絶対零度よりもなお冷たい目がゴドフリーを射抜く。何かに理由をつけて行動を起こそうとしなかったのは、ゴドフリーの反省するべき点である。ここまで愚弄されたのだから、今度こそ怒らなくてはいけないと分かっていても、どうしたらいいのかが分からない。今まで、怒りも憎しみも嫉妬もするべきではないのだ、と頑丈な戦神鋼でできた箱に押し込んできたばかりに、肝心なところでどうしたらいいのかが分からない。
 シャルロッテは、話はそれだけだと言わんばかりに背を向ける。かつて彼らが住んでいた屋敷があった今は何もない土地に背を向けて、すぐ近くで待機していたネッロと合流する。だんまりを決めていたネッロだったが、おもむろに口を開くとゴドフリーに声を掛ける。

「こういうときはお前最悪だな、って一発殴ればいいんですよ」
「無理だろ。憎らしい弟の、ピアノの才を支える指だって折りたいっていう気持ちを箱にしまって沈めてきたような男だぞ」
「あー、そうでした」
「お前達、聞こえているぞ……」
「聞こえるように言ってるんですよ。なんですか、まだテッフェのほうがマシな生き方をしてますよ」
「言ってあげない方が良いですって、シャーロット。記憶ぶっとばしてるテッフェのほうが、まだ感情の動かし方を知ってるのは面白すぎますけど」
「……はあ。お前達、まさかそれが素だと言わないだろうな……?」
「……え、今まであれが地だとでも?」
「……兄様よぉ、さすがに貴族は猫かぶりを生まれてすぐに覚える生きものだって理解した方がいいぞ……」

 呆れたようなシャルロッテとネッロの目に、ゴドフリーは思わずそっぽを向く。そんな兄に、どうしようもねえわ、と呆れるシャルロッテと面白いものをみたと笑うネッロ。そうだ、とネッロはひとしきり笑ってから提案する。

「アングリーのおっさんにこの人がちゃんと殴り合いの喧嘩が出来るように仕込んで貰いましょうよ」
「はあ?」
「いや、だって、めちゃくちゃ殴りたいぐらい怒ってるけど、怒りの表し方がわからないって顔してるし。あと、僕はお前が兄に殴られるのを見たいですね」
「後半が本音だろ。いや、でも、この人が俺のピアノを聞きたくねえーって言いながら手を折りに来るのはちょっとみたいものがあるわ」
「でしょ。だったら、絶対馬の合わない男を用意した方が面白いことになると思うんですよね」
「お前頭良いじゃん。よし、決まりな。兄様今日暇か? 暇じゃなくてもあけて貰うつもりなんだけどさ」
「ま、待ちなさい。なんの話をしているのか、私にも分かるように言いなさい」

 今から嫌ってぐらい分からせるよ。そう笑ったふたりの後ろには高位妖異の姿すら見えるようで、ゴドフリーは弟たちの本性を知りたくなかったし、なんなら探そうと思った過去の自分を殴りたくなった。