title by 蝋梅(https://roubai.amebaownd.com/)
ゴドフリー・ディ・シーダーは、その日偶然トームストーンを持ち歩いていた。文字の送受信が可能なように改造されたそれは、参加しているリンクシェルの通信用にと、渡されたものである。
あくまでも行方知れずの弟を探すためのリンクシェルだった。模擬戦闘をしたり、リンクシェルに参加しているメンバーとカボチャを彫ったりしていたから忘れがちだったが、元々は弟を探すためだった。
気がつけば随分と近しい関係を持ったものだ、とその事実に苦笑しながら、ゴドフリーはリンクシェルメンバーが手懐けたらしいマンドラクイーンにつける名前をどうするかで盛り上がる面々を見る。シアンがこの名前はどうでしょうか、と名乗りをあげ、エデンがいいね、と頷く。この場にいないメンバーにも聞いてみようとトームストーンに打ち込む彼女の素早い指捌きを見ながら、若いなあ、とゴドフリーは微笑ましく思う。自分なんて一文を打つのにも大変だというのに。
送った、と騒ぐ彼女に連動するように、コートの右ポケットが振動する。おや、とゴドフリーは驚き、ああ、と納得する。そういえば今日は持ち歩いていたのだと。
普段持ち歩かないからこそ不思議なものだな、と思っていると、即座に返信が書き込まれるのをみて、みんな若いな……とゴドフリーは苦い気分になる。書き込まれた名前を見て、弟を連想してしまい眉を顰める。
Charlotの名前なんてありふれた女性名だ。シャーロットもシャルロットもシャルロッテもよくある名前だ――そう自分に言い聞かせて何年も経った。弟にそんな名前をつけた今は亡き両親を恨みがましい気持ちになり、静かに首を横に振る。家族を恨む気持ちに罪悪感を抱きながら、ゴドフリーは返信をするか悩む。どちらの名前もマンドラクイーンにふさわしいと書き込もうとして、流れてきた返事を見て手が止まる。
Charlotだけならば気にはしなかった。ありふれた名前だからだ。
しかし、Nelloはありふれた名前だと言えるだろうか。亡父に仕えていた騎士の息子、弟の古馴染でもある彼の名前はしばらく聞いていない。知り合いにもいない。二人の弾むようなやりとりは付き合いが長いことを思わせるものだ。チャット画面を遡ればより鮮明にわかることだった。流れてくるテキストチャットの量が多くて見過ごしていたが、こんなところにいたのかも知れない事実に、ゴドフリーは目の前が複雑な感情から赤くなるようだった。
名前だけが表示されるからこそ、そのCharlotとNelloが知っている者なのか分からなくて、ゴドフリーは小さく息を吐き出す。ぐるぐる迷宮に落とされた思考をリセットしようと、寝る時間だからと言い訳をしてリンクシェルメンバーが集まるアジトの外に出る。
外は雪がちらついていて、頭を冷やすのにちょうど良かった。