title by Cock Ro:bin(http://almekid.web.fc2.com/)
シャルロッテとしては、ネッロから誰かしらに話が漏れるだろうとは思っていた。大した家ではないけれど、家庭内の事情は彼自身気にしていないからだ。これが兄・ゴドフリーとなると話が違うのだが。
次男に自身の才能を悟り、その才の開花に時間と愛と労力をすべて投げ打った母。その母に突如として見放され、困惑のまま向ける先を失った愛は、彼女に瓜二つだった妹に向けるしかなかった兄。それが普通だと思っていた甘え上手の妹。父といえば、母と常に剣術かピアノかで口論をしていた記憶ばかりである。それがシャルロッテ――シャーロットの記憶にある家族の姿だ。
父を失い、母を失い、貴族としての誇りこそあれど、それで腹が膨れるわけでもなく。貧民に堕ちても公明正大な貴族であろうとする兄と、その兄に甘えたまま自らは何もしない妹。
シャーロットはそんな二人を見ながら、貴族として再興する可能性は早々に捨てていた。騎士として大成する気もなかった。いつかの昔、共にいるネッロと話していた退屈なばかりの竜殺しに興味がなかったのだから、当然だろう。終わらない千年の戦争。そのために一度きりの人生を使い潰すつもりはなかったし、貴族として他者に手本となり続ける人生もごめんだった。
「あの戦争が終わって、ゴドフリーもイシュガルドから出てくるだけの暇があった、ってことかね……いやはや、今まで情報屋かその手合いだったから油断してたな」
「ね、面白いでしょ。あのゴドフリーがリムサ・ロミンサに顔を出す! しかも、同じリンクシェルに参加してるときた」
「おー、本当に面白いわ。エデンだけが慌ててんのも含めて面白いわ」
「ああ、それは僕も思いましたね。愉快すぎ……どうせゴドフリーに人は傷つけられないでしょうし?」
あんたのピアノに母親を思い出してる時点で、指を折ることもできないんじゃないかな。
けらけらと笑うネッロに、あの母親大好き人間だもんなあ、とシャルロッテも頷く。それは過小評価でもなく、彼らにとっての事実である。ピアノを弾けなくするために指を折る機会は何度もあったのに、それをむざむざ捨てている男が、今更何ができるのだろうか。
「どうせあんたの妹に対して、きちんとどうしてそうなったかを聞いて、怒りに身を任せて指なり顔なり傷つけようって気持ちでしょうよ」
「ありそうだな。しかも、原因は全面的に俺にある。ただの暴行沙汰じゃなくて、火遊びしすぎたからだもんな。いやー、あのころは若かった」
「反省してます?」
「してるしてる。してるから、店の女にしか手を出してないだろ?」
「なるほどね。僕もあんたのやらかしを反面教師にして、店の人にしか手を出してませんけど」
「先人に習え、ってやつだな。大事だよな、それ」
けらけらと笑いながら、シャルロッテはよく冷えた紅茶を一気に煽る。少しばかりの渋みが勝ちすぎたそれを飲み干すと、ゴドフリーは今犬飼ってるらしい、とシャルロッテは口にする。
それを聞いたネッロは、ぶふっ、と紅茶を噴き出す。きたねえ、と言いながらシャルロッテは台拭きをネッロの顔面に向かって投げる。それを受け取りながら、ネッロはあの小物好きらしいですけど、と笑いながらテーブルを拭く。
「マジです?」
「マジらしい。犬に乗ってアジト周辺散歩してるってよ」
「うっわ、それちょっと見たいかも」
「あるんじゃね? まあ、アジトいく時はちょっと気をつけるか……」
いきなり弟と出会ったら、ゴドフリーの心臓が止まるかもしれないしな。
口角をにい、とあげて笑ったシャルロッテに、ネッロは僕も気をつけよっと、と同じように口角をあげて頷いた。