サイハテトラベル5

サイハテトラベル/サンハ=ユアニルの麓にて
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title by Cock Ro:bin(http://almekid.web.fc2.com/)

 混み合いもひと段落ついたからか、ヴォルフガングがリーゼを手招きする。なんだい、と言いながらのしのしとやってくる赤毛のドーン族の彼女は、ユウタとカナを見ると、細っこいガキンチョだねえ、と大声を上げる。

「そんな細っこかったら、トトユどころか、ネァイーウにすら吹っ飛ばされちまうよ。ちゃんと肉は食べてるのかい」
「今たらふく食わせたところだよ。ところでな、リーゼ。前に、ここに異世界から来たやつがいたんじゃないのか?」
「なんで知ってるんだい……まあいいさね。あのメガネの細っこい男なら、半月前に帰っちまったよ。なんでも、森の奥に光るクリスタルみたいなもんがある、とか言ってたねえ……」
「へえ」
「それを調べに行くっていうもんだから、あたしゃあんな細っちい男一人行かせるのは心配でね、着いていったんだよ。そしたら、ぱーって光ったら、あいつ、帰れそうだ、って喜んじまって……さっさと別れの挨拶をして帰っちまったんだよ」
「森の奥? あの古い教会のあたりか?」

 ヴォルフガングがそう言えば、そうだよ、とリーゼは頷く。移築したが、金銭の問題から取り壊されることがなかった教会は、確かにヴォルフガングとマクシミリアンが住む家にほど近い森にある。
 適度に間引きされ、そこまで鬱蒼としてはいないが、獰猛な獣も定期的にヴォルフガングが狩っているものの、気性の荒い生き物は生息している。それを心配したリーゼはさすがだと思うし、それが功を奏しているのは素晴らしいことだ。

「確かに、気が付いたら森の入り口らへん? にいたもんね、あたしたち」
「そうだね。遠くに家があったから、そこまで行ってみようってなって……じゃあ、その森にあるのかな、帰り道」
「半月前か……二週間程度しかいなかったってなると、何かしらの理由があるんだろうな」
「わかんねえな。そういう難しいことは、マクシミリアンの得意分野だろ?」
「おいおい。俺に全部振るなよ」
「……そういや、あいつが帰った日は、月がよく見えたねえ。何か、関係あるのかね」

 あたしは仕事に戻るよ、とリーゼはヒラヒラと手を振るとトレイ片手に調理場に戻っていく。彼女を見送り、マクシミリアンは月か、と呟く。

「部活帰りだったけど、そんなに夜遅くなかったよね。まだ夕焼け出てたし」
「うーん、まあたしかに、月が見えるほど暗くはなかったよね」
「……まあ、昔から月には不思議な力があると言われていたしな。満月は特に神官たちの魔力を増幅させるし、新月なら減退させる。まあ、一部の種族は逆だが……」
「おお……! ファンタジーな理論だよ……!」
「カナちゃん、真面目な話だよ。確かに、占いやってるお姉ちゃんも、新月から満月にかけてはパワーを吸収する、って言ってたなあ」
「どこにもそういう話はあるんだな。月がよく見えた、というのがあるし、場所も教会ときた。神官が残したものがあったんだろうな、そこに」

 満月で満ちた魔力で、たまたま帰ることができたのかもな。カシェバの紅茶にルリカルネの砂糖を溶かしながら、マクシミリアンは自分の理論にうんうんと頷く。それは割と適当な感じがした。
 いい加減だぁ、と言いながら、カシェバの紅茶をストレートで飲むカナ。とりあえず次の満月を待つしかないよね、頷く彼女も、有益な情報はこのくらいだというのを理解しているのだろう。
 意見がまとまったところで、デビルズハンマーの話をふとユウタは思い出す。この世界の命名規則とは外れる名前のつき方が、ずっと魚の小骨のように引っかかっていたのだ。もしかしたら、かぐや姫や不思議の国のアリスの話が来たように、異世界の人間がつけたのではないか。そう思うと、マクシミリアンやヴォルフガングにも聞いてほしくて口を開く。

「あー、確かに違和感はあるよな、デビルズハンマー。名前がついたのって、そんなに昔じゃなかったよな?」
「そのはずだな。出荷するほど採れないから、地元の人も名前をつけてなかった、なんて言ってたか」
「てことは、サンハ=ユアニル以外にも、そういう人間は来ていたのかもな」
「かもな。存外、ここ最近の話じゃないのかもな、異世界からの探訪。案外帰り方も簡単だったりするから、余計に話題にならないのだろうな」

 うんうんと頷く二人に、ユウタは神隠しってこういうことなのかもね、とカナに耳打ちをする。彼女もそうかもね、と紅茶を飲み干しながら頷く。
 テーブルの上の食事を食べきり、支払いを済ませる。釣り銭をマクシミリアンに渡しながら、リーゼはユウタとカナに声をかける。

「あんたたちのところに、ハヤミって男がいたらさ、肉と魚もっと食え、ってあたしが言ってたって伝言頼んでもいいかい」
「ハヤミさん……ですか」
「なんて言ったかな。ハヤミ……ハヤミ、ショーノ? だったかね。まんまるのメガネをかけて、ボサボサの髪で、あんたたちよりも背が高いくせにガリガリの男だよ。ああ、でも、あんたたちみたいな揃いの服はきてなかったし、年もあんたより上に見えたね」
「ハヤミショーノさん……分かりました。出会うか、わからないですけど、見つけたら伝えます」
「あたしも探してみるね! あ、ごはんおいしかったです! ごちそうさま!」
「ああ、その言葉、ハヤミも言ってたよ。いい言葉だねえ」

 ニコニコと笑いながら、リーゼは帰るまでにまたおいで、と二人の額を軽く小突く。にへへ、と笑いながらカナはまた来まーす、と元気に返事をする。ユウタはペコリと頭を下げるに留めた。
 金は俺たちが出すんだけどな、とマクシミリアンは困ったように笑い、ヴォルフガングがどうせサービスで大盛りにしてくれるんだろ、と決まっているように言うものだから、リーゼがあんたらにはサービスしないけどね、と笑い返すのだった。