誰もが皆いつか還る麦の海

サンハ=ユアニルの麓にて
  1. ホーム
  2. サンハ=ユアニルの麓にて
  3. 誰もが皆いつか還る麦の海

title by OTOGIUNION(http://otogi.moo.jp/)

「おう、マクシミリアン。メイナードの店で安売りしていたんだ」
「安売りしていたんだ、ってなぁ……量ってものがあるだろう、量ってものが」
「いいだろ? どうせ、これだって半分は俺が食べるんだからな」
「まあそうなんだが……」

 はあ、と大きなため息を吐いたマクシミリアンは、目の前の箱に収まった袋を見てため息をもう一度吐く。彼がため息を吐くのも当然だろう。マクシミリアン=イルデブランドの同居人であるヴォルフガング=ブラッドフォードは、大きな木箱に山ほど小麦粉を抱えて帰ってきたのだから。
 ヴォルフガングはただでさえ筋骨隆々とした体に、大きな斧を振り回して戦う、いかにもなパワータイプの戦士である。そんな彼は巨体に見合った食欲を、サンハ=ユアニルの麓に出没するモンスターたちの肉や、近隣で採れる農産物で満たしているのだ。だからこそ、サンハ=ユアニルの街にあるメイナードズ・ショップでこうして安売りの食材を買い込んできては、マクシミリアンに料理するようせがんでいるのだ。
 サンク・キタテウェルトは首都アミダ・サミゼから、北西に二十ラノラミゴ(一ラノラミゴは現代日本において約九五〇メートルである)ほど離れた場所にある、隣国トメラ・チズルメルとの国境でもある山とほど近い場所にあるサンハ=ユアニルの街から、さらに四ラノラミゴほど離れた場所に家を構えているマクシミリアンとヴォルフガングである。理由としては、巨漢の男二人で住むには、家具がどうしても大きくなる。そう、家も大きくなってしまうのだ。そして、街から離れた場所なら、土地代も安いのだ。
 そんなこんなで、街からほどほどに離れた場所に住む彼らは、モンスターをほどほどに狩りながら、モンスターの素材や国境を越えてきた商人たちの護衛をしながら生活をしている。

「まったく……その小麦粉だけじゃないんだろ?」
「お、わかるか!? へへ、実はよぉ。ハルム・ラノキアの新作エールも買ってきたんだ」
「お! ハルム・ラノキアの新作か。それはいい買い物をしたな」
「だろ? この小麦粉は倉庫にいれておくから、早くエール飲もうぜ」
「おいおい。まだ昼だぞ?」
「何言ってるんだよ。昼から飲むからうまいんだろ?」
「……それもそうだな」

 話の分かるマクシミリアンだぜ、と笑いながらヴォルフガングはいそいそと家屋の隣に作った高床式の倉庫に小麦粉の詰まった木箱を放り込む。どすんどすんと大きな音を立てたそれに、乱暴に扱うなよ、とマクシミリアンは注意をするが、鼻歌を大きく歌っているヴォルフガングには聞こえていないようだ。
 そんなことだろうと呆れながら、不意に山から続く道に人影が見えたことにマクシミリアンは気がつく。丸眼鏡を光らせながらそちらを見ると、そこにいたのは年若い少年達だった。
 魔王なんていう存在はおとぎ話の中に消えてしまったが、この世界では若い少年達が世界を見るために旅をすることは珍しくない。とはいえ、その旅も大体は周辺国を二つか三つ回る程度なのだが。きっと、彼らもそうなのだろうとマクシミリアンが微笑ましく思っていると、片付けてきたぞ、とヴォルフガングが倉庫から出てくる。

「どうしたんだ? なんか、うまいものでも転がっていたのか?」
「バカ言え。ほら、あの子どもたちだよ。きっと旅をしているんだろうな、って思ってな」
「おお。俺も昔は旅をしていたなあ。うんうん。いいことだ。旅はいろんなものが見えるからな」
「全くだ。どうだ、あの子どもたちに飯をふるまってやるっていうのは」
「ええ? そうしたらエール飲めねえじゃねえか」
「エールは夜までアイスボックスで冷やしておけばいいだろう。よく冷えたエールはうまいぞ」
「……それもそうだな!」

 話がまとまると、ヴォルフガングはおーい、と少年たちに声を掛ける。声を掛けられた少年たちはびっくりしながらも、ぺこりとお辞儀をする。少年のひとりがヴォルフガングになにやら話しかけられて、おっかなびっくりその後ろをついてくる。そろそろとヴォルフガングについてきた少年たちは三人だった。

「連れてきたぞ!」
「お前、ちゃんと飯だって誘ったんだろうな? なんか、めちゃくちゃ不安そうに見てるぞ」
「あ、やっべ忘れてたわ。まあ、マクシミリアンが今言ったから大丈夫だろ!」
「おいおい……このでかぶつがびびらせて悪かったな。山越えてきたんだろ? 飯でも食っていけよ」

 取って食ったりしないから安心しろよ。
 そうマクシミリアンが言えば、少年達は安心した様子でほっと胸をなで下ろすと、ごはんいいんですか、と尋ねてくる。マクシミリアンは大きく頷いて、ヴォルフガングは大きな声で男二人の飯で良いなら、と言うのだった。