title by Hiver(http://genseinimauhiei.nobody.jp/hp2/9.html)
地球という惑星が宇宙に開かれたのは、教科書に載るぐらいには昔のことである。なんでも、ひとりの女性が地球を訪れていた宇宙から訪れていた人物と接触したことがきっかけだとかなんとか。地球史の教科書をひもとけばいくらでも載っていることだ。
今では外宇宙とのやりとりが多く、空には大きな船がいつだって飛んでいる。友好都市として、地上で活動できなかったりする種族のために作られた地下都市・シェルターは地球人にも人気である。人工的に生み出された太陽は、肌にそれほど毒ではないというのもある。
そんな地下都市・シェルターに、トア・メルヴィンは暮らしていた。純粋な地球人ではない彼女は、優れた身体能力を持つ父方の血筋を活かしてパフォーマーとして活動している。ペットや彼女自身のパフォーマンスを動画撮影しては配信する、それで日々を暮らしている。それなりに人気で、それなりの生活を送ることは出来ている。
大きな有翼の猫がのそのそと歩いている。白い翼と身体、足先と羽根の先は黒い。長毛種の猫に翼が生えたそれは、テュリウスと呼ばれる地球外生命体だ。地球に昔からいるノルウェージャンフォレストキャットによく似た身体に、羽根が生えたそれは地球でも人気の高いペットだ。
レノとトアが呼んでいるそのテュリウスは、定点カメラの前に置かれたネズミを模したぬいぐるみを真っ白な脚でふみふみと踏んづけている。生配信をしているため、レノがネズミのぬいぐるみを踏むたびに、つけっぱなしの配信用のタブレットパソコンにはコメントが流れている。かわいい、このお金でもっとぬいぐるみを買って欲しい、おやつ代、今日もかわいいからお小遣い……さまざまなコメントとともに金銭をともなうコメントが流れていく。
定点カメラの前でネズミのぬいぐるみを踏んでいたレノは、飽きたのか身体をふるふると震わせるとカメラに尻尾を向ける。のそのそと歩いて行くレノは、システムキッチンの前で座ると、なーお、と一つ鳴く。
「レノ……ごはん……?」
「なう」
「もうちょっとしたら、もっていくから、ね……?」
「なあぁーう」
トアさんもごはんだ、レノくんトアさん大好きでかわいい、今日もいいウィスパーボイス。トアの声が聞こえたからか、さらに投稿されるコメントの数が増えていく。日頃ピアノ演奏やパフォーマンス、ペット動画ばかりで雑談配信などを行わないからこそ、生配信のレノ動画でした聞こえない彼女の肉声は希少価値が高いのだ。
キッチンから戻ってきたレノは再びふみふみ、ネズミのぬいぐるみを噛みながら寝転んでいると、ことん、とカメラの前に銀色のカップが置かれる。ざらざらと注ぎ込まれるペットフードをみると、レノはゆっくり起き上がる。ネズミのぬいぐるみはぺい、と捨てられている。
いっぱい食べる君が好き、今日もご飯をたべるレノくんで白米がうまい、ご飯代だよ、毛艶が最高なのでこれでおいしいご飯をもっと食べて。レノが食事を始めると同時に、多くのコメントが寄せられる。それをタブレットパソコンでみながら、トアは自分用に用意したペスカトーレにフォークを指した。