novel
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私とわたしの日々是好日
百円の幸福
「アヤセ、ドルチェにカステラはどう?」「カステラ? 珍しいわね、もらおうかしら」 夕飯を済ませた二人は、風呂が沸くまでの間のんびりと過ごしていた。特に見たいテレビ番組があるわけでもなく、読みたい本があるわけでもない。ただ二人は、ワインレ... -
私とわたしの日々是好日
おおきなともだち、ちいさなともだち
寝る前にこっそり食べた甘い物のせいかもしれないが、涼介は上の歯に虫歯が出来た。痛くない、大丈夫、やだ、いきたくない。散々だだをこねてみたが、母親には通用せず、自宅のあるマンションからほど近い歯医者に連れてこられた。 おだやかな生成り色... -
私とわたしの日々是好日
ミッドナイト・レイニー
ふ、と意識が浮上した。 一度眠りに落ちると、絢瀬は朝まで起きることが少ないのだが、今日の夜だけはそうではなかった。ふわり、と水中からあがるように、スムーズに意識が浮上した。一瞬、もう朝かと誤認するほどだった。夜光塗料が針に塗られた時計... -
私とわたしの日々是好日
つまりは男子会の誘い
ヴィンチェンツォはジムの大浴場で汗を流していた。手足をぞんぶんに伸ばせる、それだけでトレーニングの疲れも吹き飛ぶと言うものだ。 自宅ではなかなか伸ばせない手足を思う存分に伸ばしていると、相変わらずいい筋肉してるねえ、と声をかけられる。... -
私とわたしの日々是好日
口づけに愛を込めて
ヴィンス、座って。 そう言われるがままに、ヴィンチェンツォはソファーに腰掛ける。座った彼の正面に立った絢瀬は、あなた本当に大きいわよね、と嘆息する。ヴィンチェンツォが座るか、膝をついてはじめて、絢瀬からキスができるようになるのだ。それ... -
私とわたしの日々是好日
ラブレターに口づけを添えて
あさってはキスの日らしいですよ。 終業後、残業が確定してしまった妋崎(せざき)はぼそりという。なにそれ、と叶渚(かんな)が尋ねると、昼休憩の時にツイッターで流れてきたんですよ、と返ってくる。 「なんでも、昭和二十一年に日本ではじめてキス... -
私とわたしの日々是好日
スリーピィ・グッドモーニング
内容は覚えていないが、とてもいい夢を見た。 意識はゆっくりと浮上して、これ以上なく完璧な寝起きだ。二度寝をしたくなる中途半端な眠気もなければ、昨日まであった身体のだるさもない。 昨晩、久しぶりに職場に顔を出したところ、ちょうど棚卸しを... -
私とわたしの日々是好日
甘い罠
「……?」「どうしたの?」「んん……いや、なんでもないよ」 なんでもない、と答えたヴィンチェンツォの表情は、どこか違和感を覚えているような顔だった。なにか、しっくりこないという顔をしながら、彼は食事を終える。 絢瀬の空になった皿を受け取り、... -
私とわたしの日々是好日
アイスミルクに愛を添えて
雨上がりで湿度も高い夕方の事だった。 耐えきれないほどではないが、ジャケットが張り付くような感覚が嫌で、絢瀬はジャケットを脱いで腕にかけていた。いくら春夏向けのスーツで軽く、通気性に優れていようとも、張り付く感覚からは逃れられない。長... -
私とわたしの日々是好日
液晶テレビの前で、二人
開幕十五分だけで良いんで見てください。まだ見れそうだと思ったら、見れるところまで見てください。 そう言われて見始めた前編3DCGで作られたアニメーション映画は、なんとも言えない物だった。妋崎(せざき)の頼みでなかったら、金を積まれない... -
私とわたしの日々是好日
雨の日、憂鬱も君となら
しとしとしと。静かに雨が降っている。 テレビの中にいるお天気キャスターが、つい先日梅雨入りを宣言していたのを思い出して、絢瀬は今日の予定を思い出す。 昨晩、明日の雨が止んだら、買い物行こうよ。そうヴィンチェンツォは言っていたが、静かで... -
私とわたしの日々是好日
夏の気配
緑鮮やかになりつつある五月の終わり。絢瀬はスーツのジャケットを着ながら、暑くなってきたな、と思う。 こういう時に車通勤ができたのなら、冷房の効いた車内にいられるのだけれど。そう思いつつも、会社から自宅までの距離ではガソリン代が出ないこ...