title by alkalism(http://girl.fem.jp/ism/)
惑星外から人が来る事なんて珍しくなくなった。僕らだって他の惑星に行くこともあるのだ。外の惑星には、人の形を取っていない存在も多い。獣のような姿だったり、魚が喋っていることだって不思議ではない。知性ある生命体はなにも二足歩行をする愚かしい生き物とは限らないのだ。より便利に発達するために他者に寄生する生命体だって存在した。まあ、そういう生命体はだいたい戦争に発展するのがオチなのだけれども。
それはともかくとして、僕は今目の前にいる高度な知能を持つ生命体と話していた。名前はサロセイル・エカ=メルさん。サロセイルでいいよ、とは本人の言葉である。どうやら、その名前は本名ではないらしいのだけれども、本来の彼の名前は人の発声器官では発音が難しい言葉らしい。いずれ本来の名前も知りたいものだと思いながら、彼と僕の間にコーヒーが置かれる。かぐわしい香りが鼻孔をくすぐる。
「どうにもね、人になろうと思うと歪な部分が生まれてしまってね。君さえ良ければ、違和感があるところを指摘してほしいのだよ」
「そうですかね? 僕が見る限り、外見は人そっくりですよ」
「そうかい? それはなによりだよ」
人の身体は細かい作業や、同じ人間を観察するのに向いているから助かるよ。
そう話す彼は目を三日月の形に歪ませて笑う。綺麗に笑う彼に、顔がいいのは外見を取り繕っているからかな、と嫌な考えが頭をよぎる。そんな考えを振り払い、彼と向き合う。薄く微笑む彼に、どこか違和感を覚える。何に違和感があるのかは分からないが、なにか――なにかおかしい気がする。
そんなことを首を傾げながら考えていると、彼も同じように首を傾げておかしな点があったかな、と尋ねてくる。
「違和感はあるんですけど……具体的にと言われるとどこだろう、って感じなんですよねえ」
「そうかい? ということは、些細なことだろうな……」
目を細めて顎に手を当てて考える彼に、あ、と思わず声が出る。気がついてしまった。彼が僕と会ってから一度も彼は瞬きをしていないのだ。
それを指摘すると、サロセイルさんは驚いた顔をして――瞬きを一度した。
「なるほど。人は瞬きをするのだね」
「そうじゃないと眼球が乾きますからね……サロセイルさんはしないんですか?」
「しないんじゃないかな? 今指摘されるまで、考えたこともなかったからね」
「そうなんですね。人は定期的に瞬きをして目に入ったゴミを拭ったり、涙を目の表面に行き渡らせるんでですよ」
「なるほど、そう言う理屈で瞬きをするのだね」
それなら納得だ。そう頷いた彼は目を閉じたり開いたりしている。どうやら、本当に意識的にしないと忘れるようだ。
……もっとも、どうにもそれがいきすぎて定期的――本当に一定間隔で瞬きをするようになったものだから、違和感をますます覚えるようになってしまって、それはそれでどうしようもなくなった、というオチがこのあと着くとは今は知らなかった。
*
「……あなた、なんだかこう……違和感があるのだけれど」
「違和感? どこにだい? まだまだ私の変化も完璧ではないということかな」
「うーん……どこ、と言われると困るのだけど……」
首を捻るトアに、サロセイルは昔研究者の友人から言われた言葉を思い出す。あの時の彼は、何と言っていたのだったか。たしか――瞬きをしなさすぎるか、瞬きが一定間隔すぎると言っていたような気がする。おそらく、トアが抱く違和感はそのどちらかだろう。
まだ目の前にいるサロセイルのどこに違和感を覚えているのか分からないらしく唸っている彼女に、サロセイルは目を歪めて笑う。完璧な微笑みを浮かべた彼は、気がついたら教えてほしいな、と言うだけにとどめた。